| しっちゃかめっちゃか志ん生 |
| 文:小島 貞二 |
| 助っ人・権太桜 〜家賃たまって家主おどす |
| 志ん生と権太楼がとなり合わせに住む。2人とも芸人だから、都合のいいこともあるが、わるいこともある。 |
| 寄席へ出かけるときは、どちらからともなくさそい合わせて家を出る。笹塚から新宿までは当然電車であるが、この電車賃が8銭かかる。「もったいないから、歩こうや」ということになり、テクシーをきめ込む。 |
| 犬やネコではないからハダシというわけにはいかない。ゲタで歩くが歯がへる。計算してみると1日に5銭近くへることになる。「なにか、もっと丈夫で、長持ちするハキものはねえもんかなァ」と捜していると、古道具屋の店さきに、皮の長ぐつがぶら下がっており、志ん生の足にピタリ合う。値段が1円で案外安い。和服に長ぐつというのはあまり見てくれはよくないが、そんなことにかまってはおられない。 |
| そればかりで寄席へ通っているうちに、ある日ドシャ降りとなり、くつの中まで水びたしとなった。ひっくりかえしてみると、底に穴が二つあいている。腹を立てて古道具屋に「金ェかえせ」とどなり込むと「値段と相談してみてくださいな。穴でもあいてなかったら、あんな値段で売れますか」と、反対にやり込められ志ん生思わず「うん、穴があったら入りたい」 |
| 家賃はたまる一方で、人のいい家主もしまいに腹を立てて、矢のさいそくとなる。権太楼が「そっちの交渉は、オレにまかしな」とポンと胸をたたく。どうするのかと見ていると、家主に向かって「やい、やい、オラァ本所の借家同盟に入ってるんだぞ…」とタンカを切って、追っぱらった。本所の借家同盟というのは、当時…大震災直後の住民パワーで、家主たちはその名前をきいただけでふるえ上がったものだ。権太楼はむろん、苦しまぎれにその名を持ち出したにすぎない。 |
| そのうち、ひとり者の権太楼は、大塚あたりの花柳街に好きなねえさんが出来て、そこへ入りびたりとなり、志ん生一家は有力な助っ人を失った。同じ笹塚を、あちこち転々とする。はてしないびんぼうが続く。 |