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江戸時代の地図と現代の地図を重ねて見せる『江戸東京重ね地図』。時代劇に登場する地名などが、現在のどのあたりなのかを豊富なデータベースとともに知ることができる画期的なソフトだ。このソフトの企画・制作を行なった小島さんと今西さんに、その舞台裏をうかがった。
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たとえば鬼平が、本所の住まいから仕事場の番町取調所までの道のりを、どれぐらいの時間をかけて歩いたのか。そういったものがこの地図を見ると、実感として感じられると思います。
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−−そもそも江戸時代の地図っていうのは、たくさん現存しているものなんですか?
- 小島
- 江戸っていうのは世界的に見ても、地図が多く残っている都市なんですよ。同時代のロンドンなんかよりもよっぽど多く残ってるんです。
−−ヨーロッパだと、地図は戦略的な理由から、なかなか表に出てこなかったものですよね。
- 小島
- 日本でもシーボルト事件でわかるように、地図は機密扱いにはなっていたんですが、手書きのイラストのようなものなら、地方から来た人のお土産用としていろんな種類の地図が売られていたんですよ。それらを集めて1枚の大きな江戸地図を作るという作業をしたんです。まあ1枚1枚をトレーシングペー。ハーでなぞってつなげていくという、それは大変な作業ですね。今回の『江戸東京重ね地図』では、その地図からパスを起こして、現在の東京の地図と合わせて、重ねて見られるようにしてあるんです。
- 今西
- 現代の地図の方も、江戸の地図に合わせてパスで大きな地図を作ったんですが、これが想像以上に大変な作業になったんですよ。この作業をやってみて気付いたんですが、国土地理院の発行している地図が、厳密に言うと合ってなかったりするんです。地図と地図のつなぎ目の部分で、微妙にずれていたりするんですね。中心部ではわずかでも、つないでいくと東京の端の方ではものすごくずれてしまう。また作っている最中にも、いろんな建物が建ったり、大江戸線が開通したりして、こんなに大変になるとは思いませんでした(笑)。
−−もとになった江戸の地図は、いつ頃の時期のものなんですか。
- 小島
- 図は江戸の中期から後期にかけてのものです。それに江戸末期の土地台帳を参照して、地名や上地の広さを調節していったんです。
- 今西
- もう1つ明治時代に現代の測量技術で作られた地図もあって、それと照らし合わせるという作業もやってるんです。
−−これを見ていると、ただ漠然と「江戸」って言っていたものが、具体的な大きさをともなって感じられますよね。
- 小島
- そうですね。時代劇の小説など、例えば『鬼平犯科帳』で、鬼平が本所の住まいから現在の毎日新聞社の前あたりにあった番町取調所まで歩いて行ったと書かれていても、読んでいるだけだと距離感まではわかりませんよね。でもこの『江戸東京重ね地図』だと、歩いたら1時間半位かなっていう見当がつけられるんです。だから時代劇を書く人にとっては、この地図は必須アイテムになると思います。もっと面白い利用方法として、都市計画などに携わるデベロッパーの人にとっても有用なんですよ。東京って実は堀や池があちこちにあって、それを埋め立てている場所がいくつもあるんですよ。だから建物を作る時に地盤の強さを知る手がかりになったりするんです。また、実際に作業に入る前に、その土地に文化財になるようなものが埋まっていないかどうかっていうのもわかるんじゃないでしょうか。いざ作業を始めて、そこから何か出てきたら、それだけで工事が中止になって、ものすごい損害が出ますからね。
- 今西
- 実際にこれの作業をしている時に、うちの事務所の隣で工事があったんですよ。そこはもともと松平の守のお屋敷があったところで、これは絶対に何か出ると思っていたら、案の走出て、工事が中断してました(笑)。
−−意外なところで利用法があるものなんですね。
- 小島
- そういった実務的な側面もありますが、やっぱり地図って見ているだけで楽しいですよね。我々のように東京に住んで仕事をしている人間は、自分が住んでいる場所や勤めている場所には、江戸時代に何があったのかっていうのは興味があるじゃないですか。地方の人にとっては、江戸には各藩の屋敷がいくつもあって、自分のところのお殿様がどのあたりに住んでいたのかという部分がわかって面白いと思うんです。そのお屋敷の跡が、現在何になっているのかっていう部分も見ることができますしね。
−−ところで『江戸東京重ね地図』のように、両方の時代の地図を重ねて見せるというのはどういったところから発想されたんですか?
- 小島
- 実際に書籍で、両方の時代の地図を重ねたものも出版されているんですが、これが非常に見にくいんですよ。両方を同じ比重で描くと、文字や線が重なってしまいますから。そういう本を見ていて、デジタルならレイヤーを2つ用意して、その透明度を変えて見せていけばより見やすくなると思ったんです。ある意味デジタルだからこそできる地図の見せ方ですよね。
−−こうなると江戸時代だけじゃなく、大正時代などの地図も欲しくなってきますね。
- 小島
- 当初はもちろんそういうことも考えていたんですよ。本当は江戸時代だけでなく、明治、大正の地図も収録してリニアに時代の変遷を見ることができたり、下級武士のデータベースを作って地図にリンクを張ったり、さらには広重の浮世絵などが、どの地点からどこを向いて見た景色なのかといったデータも入れたかったんですよ。ただCD-ROMの容量の限界で入れられなかったんですね。最近ではDVDというメディアも出てきましたが、これを作り始めた段階では、DVDのマーケットがどうなるかは全然見えていませんでしたから。とりあえず今回は江戸と現在の地図ということになっています。
−−作るにあたり、どのあたりのユーザーをターゲットにしていたのでしょうか。
- 小島
- 中に『鬼平犯課帳』のデータベースを入れているように、時代劇ファンを念頭には置いているんですよ。戻ってきたアンケートハガキを見ると、やっぱり圧倒的に60代の方が多いですね。パソコンは持っていなかったんだけど、これを見るためにパソコンを買ったという人も中にはいて、まさにそれは私が狙っていたところなんです。以前に出した『噺家紳士録』の時は、QuickTimeのインストールで戸惑った人が多かったようで、その手の問い合わせもあったのですが、『江戸東京重ね地図』には音声データが入っていないので、特別なソフトをインストールする必要もありませんし、もっと多くの人がパソコンを始めるきっかけになってほしいですね。
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(文/大嶋 明)
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